広島高等裁判所岡山支部 昭和30年(う)267号 判決
所論の主要部分の要旨は原判決は被告人を覚せい剤譲受けの常習者と認定しておるけれども、かかる認定をするについての証拠が十分でない。又原判決は被告人の判示の所為を刑法第四十五条前段の併合罪と認定処断しておるけれども、原判決のように被告人を常習者と認定する限りに於ては被告人の判示譲受けの各所為は包括一罪であるから、刑法第四十五条前段の規定を適用する余地がないものであるというのである。
そこで原判決に掲げる証拠の表示を見ると、原審相被告人小寺康仁以下十名の被告人に関する証拠を一括列挙し、いずれの証拠がいずれの被告人に関する証拠であり、いずれの証拠が右被告人等に共通のものであるか、一見しては之を知り得ない。そこで之等の証拠を吟味すると、被告人橋本義隆に関するものと考えられるものは、被告人及び原審相被告人小寺康仁の原審公判廷に於ける供述と、証第二十七号の手帳、同第二十八号のノート、(いずれも小寺康仁が被告人橋本義隆等に本件の覚せい剤を譲渡した事実を記帳せるもの)及び谷田鹿正作成の鑑定書以外には見当らない。
そして被告人及び右小寺康仁の原審公判廷に於ける供述によると、いずれも起訴状記載の通り相違ない旨を述べておるので、被告人が原判示のように、八回に亘つて右小寺康仁から覚せい剤を譲受けた事実は之を認めることは出来る。然しながら之等の証拠を以つてしては被告人が右小寺康仁から如何なる意図の下に本件の覚せい剤を譲受けるに至つたものであるかは全く知り得ない。
又原審第三回公判期日に於て被告人が覚せい剤取締法違反の罪によつて二回処罰されたことについて問答が交わされ、被告人は之を自認してはいるが、然し之を以つてしては被告人が何時、如何なる違反行為によつて処罰されるに至つたものであるかは之亦全く不明である(前科調書が証拠として挙げられていないから)。
本件に於て被告人は右小寺康仁から八回に亘つて覚せい剤を譲受けてはおるが、それは原判示のように昭和二十九年十二月十五日頃から翌年一月十七日頃迄の間僅々約一ケ月程の期間内であつて、しかもその総数は2ccアンプル入注射液八十本に過ぎない。従つて此の事実と単に日時不明の時期に覚せい剤取締法違反というのみでその内容不明の罪によつて二回処罰されたという経歴とを綜合して観察するとしても、ただ之等の事実のみによつて直に被告人の本件の覚せい剤譲受けの所為が覚せい剤譲受けの習癖の発現した結果であると即断することは困難である。
すると原判決は証拠なくして被告人が覚せい剤譲受けの常習者と認定した理由不備の違法を犯したもので、原判決は此の点に於て破棄を免れない。
次いで原判決は被告人が常習として覚せい剤を譲受けた者と認定しながら、原判決摘示の八回に亘る覚せい剤譲受けの所為を刑法第四十五条前段の併合罪と認定処断しておることは所論のとおりである。いうまでもなく覚せい剤譲受けの常習ある者が覚せい剤を譲受けたときは、譲受けの所為がたとえ数回に亘る場合と雖も、常に之を包括して観察し、覚せい剤取締法第四十一条第四項第一項第四号(昭和三十年八月二十日法律第百七十一号による改正前の法律)第十七条第三項に該る一罪として処断すべきであるから、原判示八回に亘る譲受の所為を同法条の併合罪と認定処断した原判決は事実を誤認したか又は法令の適用を誤つたもので、此の結果は判決に影響を及ぼすことは明かである。
従つて原判決は此の点に於ても亦破棄を免れない。
論旨は理由があるから、量刑不当の論旨に対する判断を加えない。
よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第四号第三百八十条に則つて原判決を破棄し、同法第四百条但書の規定に従つて更に判決する。
一、罪となるべき事実 原判決摘示のとおりであるから、之を此処に引用する。
一、之を認めた証拠 被告人が常習として判示覚せい剤を譲受けたとの点を除き
(一)被告人及原審相被告人小寺康仁の原審公廷に於ける供述
(二)被告人の司法警察員及び検察官の面前に於ける各供述調書
(三)右小寺康仁の司法警察員の面前に於ける第一、三回及び昭和三十年一月二十七日付、同年一月二十九日付各供述調書及び同人の検察官の面前に於ける供述調書
(四)谷田鹿正作成の鑑定書
によつて之を認め、被告人の判示常習性については
(一)被告人に対する前科調書に被告人が昭和二十九年十月二十九日岡山地方裁判所に於て覚せい剤取締法違反等によつて懲役四月二年間執行猶予罰金千円に、次いで同年十二月二十一日備〓簡易裁判所に於て、再び覚せい剤取締法違反によつて罰金八千円に処せられた旨の記載
(二)被告人の司法警察員の面前に於ける第一回供述調書(記録四二九丁以下)によると、被告人は昭和二十八年の末頃からヒロポンを注射するようになり、昭和二十九年七月と十二月に検挙されたが、その後も止められないので引きつづいてヒロポンを貰つては注射していた旨の供述記載
及び判示八回に亘る本件犯行とを綜合して之を認める。
(裁判長判事 宮本誉志男 判事 浅野猛人 判事 菅納新太郎)